ビートルズのドラマーリンゴ・スターはビートルズのメンバーとしての人気は高かったが、ドラマーとしての評価が今ひとつ低いように思う。
ミュージシャンレベルの評価は高いが、一般的には低いと僕は感じている。
僕はアマチュアではあるけど、リンゴを敬愛するドラマーです。
そこで、ドラマー目線でリンゴ・スターの素晴らしさをまとめてみることにしました。
目次
リンゴ・スターとは
リンゴ・スターは1940年7月7日リヴァプールで生まれた。
労働者階級の慣習に従って、父親と同じリチャード・スターキーと名付けれらた。
ビートルズに加入する以前、ロリーストーム&ハリケーンズに在籍していたころ、いい芸名をつけようということになり、「リングズ」と名乗っていたのを「リンゴ」に変え、スターキーも縮めて「スター」にした。
リンゴのソロの時間は「スタータイム」といわれていた。
ロリーストーム&ハリケーンズの時代、ドイツのハンブルグ巡業中にビートルズと出会い、メンバーと仲良くなったようだ。
時々ビートルズと演奏もしていたらしい。
そこで生まれた絆が、彼らが世界中の人々の心を捉える偉大なバンドへと成長させていったのだ。
私生活ではファンであったモーリン・コックスと1965年に結婚。その後男児をもうけるが、それは言わずと知れたザック・スターキーだ。
初期ビートルズのビート感にはリンゴが絶対必要だった
ビートルズ初期のリンゴのドラムスタイルは、8ビートが多い。
もちろんこれは、ビートルズが演奏した楽曲が背景にあるわけだが。
8ビートとは、ハイハットを8分音符で刻み、2拍目と4拍目にスネアドラムが入るパターン。
J-POPやラジオから流れるポピュラーミュージックの大半で聞かれるのが8ビートではないだろうか。
リンゴが叩き出す8ビートは前がかりで、とても強烈だ。
そして自らの楽曲への感情が、その8ビートに乗り移っている。
その勢いは、ジョンのギターカッティングとポールのメロディアスでドライブするベースと見事にマッチングしている。
だからビートルズの初期の演奏には勢いがあり、聴く人をワクワクさせて、その音楽の中に引き込ませたのだ。
もしピート・ベストが、そのままビートルズでドラムを叩いていたら、あそこまでビートルズの人気が高まったとは思えない。
「ちょっと作曲センスのいいバンドで、いい曲もあるね。」
くらいの認識で、あれほどビックネームにはならなかったと思う。
ピート・ベストについてはこちらで書いています。
リンゴの素晴らしい8ビート
リンゴの8ビートのカッコよさ、素晴らしさがよくわかる映像がある。
それは、最初のアメリカでのコンサート、ニューヨークカーネギーホールでのライブ。
最近では、ビートルズ・アンソロジーの中で見ることができる。
その中、I Saw Her Standing Thereにすべてが象徴されている。
カラダ全体でビートを叩き出し、エーモーショナルでハイテンションな見事なドラミングだ。
「これぞリンゴ!」
なのである。
そんなリンゴのビートに、気持ちよく絡みながら熱い演奏をビートルズは披露している。
リンゴは決して手数の多いドラマーではない。
この頃はフィルインも目立って入れていない。
I Saw Her Standing Thereでもサビ前のタイミングで印象的なスネアドラムのフィルを入れているくらいだ。
ただこれが、
「さあここからサビがくるぞ!」
と誰もが気づくワクワク感を演出している。
また、リンゴはこのニューヨークでのライブでは、サビへ入る前にスネアでのフィルインではなく、バスドラムのパターンを変えてサビにつなげている。
いわば、一般的なタムやスネアのコンビネーションのフィルインの代わりに、バスドラムでフィルインを入れたかたちだ。
このセンスはとても素晴らしく、当時のロックドラマーでこのような表現ができるドラマーは見当たらない。
I Saw Her Standing There
これが8ビートの基本
また、ミドルテンポからハイテンポの8ビートのお黄金パターンは下記の「8ビートパターン①」が一般的だ。
(もちろんベースラインによっては変わることもある。)
しかし、リンゴは「8ビートパターン②」で演奏している。
1小節目の終わりで8分音符のバスドラムを踏むことで、次の小節の1拍目にアクセントが移りやすい。
イメージとしては、1拍目でグッと前に突っ込む感じ。
これがビートルズの8ビートナンバーのノリの秘密である。
これが8ビートの最高のお手本。
ビートバンドの8ビートの基本はI Saw Her Standing Thereにあると言って過言ではない!
余談ではあるが、多くのビートルズコピーバンドを観て来たが、ポールのベースライン、ジョージのギター、ジョンのカッティング、コーラスなどは完コピできていても、リンゴのバスドラムのパターンを完コピしているドラマーは今まで見たことがない。
バラードにおける卓越したプレイ
リンゴのドラミングの凄さはもちろん8ビートだけではない。
ファーストアルバム「Please Please Me」の「Anna」でプレイされている、ハイハットのアクセントを抜いたビートパターンだ。
ハイハットの叩き方の工夫は、シンプルなパターンの中に自由な発想がきらめいていて、とても魅力的だ。
このパターンはAll I’ve Got To DoやIn My Lifeでも少し変形されてプレイされている。
見事な構成力 Ticket To Ride
またミドルエイトの曲ではあるが、Ticket To Rideのドラムも独創的なパターンだ。
曲は、A-A’-B(サビ)-A’-B(サビ)-A’-コーダ-フェイドアウトという構成。
まず、はじめのA-A’の部分で独創的なパターンを披露。
とても印象的なフレーズだ。
次
にB、サビの部分ではリンゴ得意の8ビートパターンが入る。
そしてA’にもどる。
普通なら、はじめのA-A’のパターンに戻るのだが、リンゴは下のようなパターンで叩いている。
これは、演奏のノリを重視しつつ、曲の雰囲気の変化をあたえる見事な構成力だ。
リンゴが歌バンのお手本とされるドラマーたる所以は、このような部分にある。
ドラマーとして円熟していく中期以降
中期くらいから、ビートルズも単なるポップソングではなく、奥行きのあるアーティスティックな楽曲を書くようになる。
それに伴い、リンゴのドラミングも成長し円熟していく。
ドライブマイカーのギターイントロから歌い出しのタイミングで入るフィルは、不意をつかれた感じでカッコいい。
テクニカルに聞こえるかもしれないが、8分でストロークをしながらスネアとタムを交差して叩いている。
ちょっとしたストロークのアレンジがトリッキー感を出し、曲のオープニングでインパクトを与えている。
Tomorrow Never Knowsのバッキングでは、8ビートを叩きながら、突拍子感さえある16分のタムで曲の雰囲気にアクセントをつけている。
A Days In The Life、Strawberry Fields Foreverのバッキングドラムとフィルインの組み合わせは芸術性さえ感じさせる。
これこそがリンゴのプレイだ。
ホライトアルバムでのエリック・クラプトンの共演、While My Guitar Gently Weepsでは、普通なら8分音符が基本になるのだが、リンゴは4分音符でリズムを刻み、フィルインに8分音符を多用するという実験的なアプローチをしている。
この辺りもリンゴがドラマーとしての成長をみせている証しと言っていいだろう。
アビーロードでもオープニングのCome Togetherではハイハットとタムの組み合わせというセンセーショナルなプレイをみせる。
Something、Here Comes The Sunのジョージの曲では簡単ではあるが、リンゴならではの発想でフィルがはいる。
これが曲の重要な一部となっている。
リンゴはあまり練習をしていなかった?
近年のリンゴのインタビューで、
「僕はあまり練習をしていなかった。ジョージもそうみたいだね。悪い子ちゃんだね。」
とコメントしている。
確かに、ドラムプレイヤーの視線から見れば、そのような時期も見受けられる。
1966年頃のプレイは、
「ツアー中やレコーディングセッション以外ではドラムを叩いていないのでは?」
と思えるコンディションの時がある。
しかし、レコーディングにおけるリンゴのプレイは、曲の中に自らを落とし込み、最大限のイマジネーションから導きだされた最高なパフォーマンスを僕たちに見せてくれている。
The Endのドラムソロはミステイク?
ビートルズの楽曲で唯一のドラムソロが展開されるThe End。
バスドラムを8分で全拍打ちしながら、リンゴならではのフィルが絶妙なタイミングではいる。
しかし、バスドラムの全拍打ちが後半の部分で1箇所リズムが微妙にづれている。
ドラマーの間では、
「バスドラムが笑う」
と表現される。
普通に聴いていると気がつかないが、集中してよく聴くと気づくのではないか。
これは、聴く側は気にならないとしても、プレイしている本人は絶対に気づいているはずだ。
しかし、それでOKを出すリンゴの大らかさも素晴らしい。
普通のドラマーなら、
「もう1回やらせて!」
となるはず。
僕だったら絶対にそうする。
このテイクは、おそらく3人のギターソロの掛け合いが後録りされているし、もう1テイク録ることは問題なかったように思うのだが。
リンゴのドラムを聴いてみて!
リンゴを敬愛しているので、少し独断的な側面もあったかもしれないけれど、リンゴ・スターのドラムの素晴らしさをまとめてみました。
もしこの記事を読んでいただき、次にビートルズを聴く機会があったら、リンゴのドラムを気にして聴いてみてください。
1995年の来日公演から、リンゴのライブには遠ざかっているので、次の来日には絶対観に行こう!
ピート・ベストのドラムについてもこちらで解説しています。