高校2年生の夏休み、念願だったエレキギターを手に入れ、ギターの練習にも熱が入る毎日だった。
基本的にはギターソロの練習だ。
この頃はレッド・ツェッペリンのギタリスト、ジッミーペイジのフレーズを耳コピして弾けるようになるまで、ただひたすら練習をするという感じ。
しかし、ジミー・ペイジの早弾きギターを耳コピするのは簡単ではなかった。
レコードをカセットテープに録音して、何度も何度も繰り返し聞いて、少しずつ前進していく感じ。
それでも、何とかさまになるようにはなってきた。
近いうちにレッド・ツェッペリンのコピーバンドを結成したいと思うようになっていた。
目次
ロックバンドへの参加
そんな高校2年生の11月のある日のこと。
今でも付き合いのある親友が、お昼の時間に僕の教室にやってきた。
そして彼は驚くことを言った。
「レッド・ツェッペリンのコピーバンドを結成する!」
これには本当に驚いたし、当然ギタリストとしての誘いだと思った。
僕の感は間違いではなかったけど、彼のオファーはセカンドギタリストとしての誘いだった。
「えっ?リードじゃないの?」
そう答えたけど、彼は
「ジミー・ペイジを完コピしているスゴイやつがいる!」
「だからお前はサイドギターで入ってくれ!」
と言うのだ。
しかし、レッド・ツェッペリンにサイドギターはいないし、バッキングをやっても面白くない。
だから彼には、
「考えておくよ。」
とだけ答えた。
意外すぎるオファーに驚愕!
しかし、その日の放課後、彼はまた教室にやってきて、とんでもないことを言った!
「やっぱりお前、ドラマーとして入ってくれないか!」
「はっ?なにそれ?」
確かにその頃、顔を出していた音楽系の同好会で簡単な8ビートは刻めるようになっていた。
しかし、あくまでも「おそるおそるリズムを刻む」という程度だ。
ドラムを叩くという次元ではない。
しかしながら、今でもそうだけど、ドラマーは少なかった。
ドラマーを必要とするバンドに対して、ドラマーの供給がされていなかった。
彼は、誘っていたドラマーの人間性に疑問を感じたため見切りをつけて、少し8ビートが叩ける僕に賭けたようだ。
返答にしぶっていると彼は、
「お前ならできるから!」
と熱く説得してきた。
「まあ、サイドギターをやるよりは面白いかな。」
とも思い、初心者には相当高いハードルのジョン・ボーナムのコピーをやってみようかと思った。
すでにライブも決定していた!
そしてさらに、彼は信じられないことを言いはじめた!
「12月のクリスマス後にライブがあるから!」
「ちょっと待って、いまはすでに11月の後半だ。3週間くらいしか時間がないぞ!ムリだよ!」
「いや、お前なら絶対にデキる!」
こいつの頭の中は一体どうなっているんだ?
と半ばあきれつつも
「まあやってみるか。」
と引き受けてしまった。
ハードルの高いコピー曲!
やると決まったら、さあ練習。
なにせ、基本的には初心者だ。
とにかく練習をやりまくるしかない。
毎日弾きまくっていたギターを封印して、ひたすらスティックを握った。
古い電話帳を練習台にした。
スティックが当たる部分にはガムテープを何重にも貼って補強した。
とにかく真剣に練習した。
だって、やる曲を聞いたら、
ロックンロール
ブラックドック
幻惑されて
胸いっぱいの愛を
そしてなぜか
ジェフスブギー
初心者がこれだけのラインナップをクリアするのははっきり言ってムリ。
だけど、ライブが決まっているから何とかかっこうはつけなければならない。
超アナログな譜面
多少難しいフィルインは割愛するとしても、バスドラムのパターンとかキメは、ある程度できていないといけない。
特に、「幻惑されて」は映画「永遠の詩」のライブヴァージョンで、曲の途中のキメが複雑で難しかった。
譜面など読めないし、書き起こせるわけもない。
この「幻惑されて」のキメパターンは、親友が手書きで書いてくれた。
もちろん譜面ではない。
○×だ。
叩くところは○
叩かないところ、つまり休符は×
○○○○××××○○○○○○○××○○○○
みたいな感じ。
何ともアナログな世界。超アナログ。
でもとてもわかりやすかった。
ルックスも最高!完璧なジミー・ペイジ
一方、ジミー・ペイジが完コピできるギタリスト。
はじめて練習スタジオで顔を合わせたとき。
そのルックスの良さにまず見とれてしまった。
身長は180センチ。
聞くところによるとバレー部のキャプテン。
ナイスルッキン。
超古臭い表現で言えば「ハンサム」
そしてギターはレスポールのコピーモデルで色はブラック。
その高い身長から低めに構えるスタイルはとてもかっこよかった。
見た目はパーフェクト。
これほどレスポールが似合う日本人は少ない。
今までの人生を振り返っても、レスポールが似合う日本人をあまり見たことがない。
もちろんプロミュージシャンも含めて。
そして、実際のプレイは・・・。
これがまた、親友が言っていた通り。
完璧だった。
はじめてプレーを聞くまでは、正直に言って
「自分の方がうまいかもしれない。」
そう思っていた。
しかし、完璧なジミー・ペイジを聞かされて、何の未練もなくドラムに集中できるようになった。
そして3週間後のライブに向けて、3人で必死に頑張った。
ロバート・プラントはベースが担当
ボーカリストが見つからなかったので、親友のベースプレイヤーがボーカルを担当した。
ロバートプラントが歌えるほど、キーの高いボーカリストはいなかった。
親友はベースも超高校生レベルだったけど、ボーカルもまた素晴らしかった。
レベルの高い2人に迷惑をかけまいと、本当に必死で毎日電話帳をたたいた。
人生の初ライブ!
基本的に高校生で、ギターの彼とは学校も違い、家も遠いので練習は土曜日か日曜日。
いまから振り返ると、本番まで4回くらいしか練習していないのではないか。
そして、本番の日を迎えた。
初めてのライブだ。
初めて人前でプレイするのだ。
めちゃくちゃ緊張することが予想された。
しかし、案外緊張することもなくステージに立てた。
大きな失敗もなかった。
一番難関だった「幻惑されて」のキメも成功した。
いまでも演奏を聞くと、上手いとは言えないが、まあ初めてにしては上出来な演奏だった。
それから、同じメンバーで何度かライブをやって、高校3年生の5月にギターの彼が医学部を目指すことになり、バンドは解散した。
このバンドが僕の人生を決めた?
しかし、僕にとっては、このバンドでドラムを叩いたことが人生を大きく変えたといってもいい。
3週間という短い時間で、とりあえず、細かい部分はさておき、ジョン・ボーナムを叩いたのだ。
同じくバンドをやる友人たちが僕を見る目が変わった。
高校を卒業してからも、そんな友人たちとの付き合いの中、いろんなバンドでドラムを叩かせてもらった。
そして、一生涯ドラムを叩くことになるであろうきっかけになるバンドに加入することになった。