大学卒業後、社会人となることを拒否して以前在籍していたバンドに復帰。
復帰後はバンドにとって、いくつかフォーローの風となるオファーが舞い込んだ。
地元名古屋のライブハウス、ELL(Electric LadyLand)が企画したオムニバスアルバム、DANCE&BEAT COLLECTIONへの参加もその一つ。
そしてアルバムリリースのライブも成功した後、次にアルバムのプロモーションとしてはこれ以上ないチャンスがやってきた。
目次
地元FM曲、佐野元春さんの番組でオンエアー!
飛び込んできたプロモーションとは、地元名古屋のFM放送曲であるFM愛知(現在の通称は@FM)でのオンエアーだった。
FM愛知は東京FMをキーとする全国ネットの放送をオンエアーするFM曲だ。
最近多くあるコミュニティFMではない。
そしてオンエアーされる番組が、日本を代表するロックミュージシャン、佐野元春さんがパーソナリティを務める番組だった。
当時の佐野元春さんは、全国ツアーは軒並みソールドアウト、Young Bloodsがトップ10入りする他、松田聖子にハートのイアリングを楽曲提供など、その活動は凄まじいものがあった。
そんな佐野元春さんのラジオ番組で僕たちの曲がオンエアーされるのだ!
これは、この上ない喜びであると同時に「大きなチャンス」であると確信していた。
オンエアーの日、佐野元春さんの紹介で僕たちの曲が流れた瞬間はなんとも言えない気持ち。
ただ心が「ジーン・・」としていたっけ。
そしてオンエアーの効果とは?!
佐野元春さんの番組でオンエアーされた後、その影響がどれくらいあったのかは覚えていない。
ただ僕たちが確信して、想像していたようなことは起こらなかった。
佐野元春さんの番組でも、扱われる楽曲が所詮ローカルなアマチュアバンドだし、ほとんどの人は興味を示さなかったのだろう。
時代は、アマチュアバンドにも注目する一部のトレンドもあり、地元のコミュニティ紙に情報が載るだけで観客動員に大きく影響した時期だ。
だからこそ、
FM曲でオンエアー
パーソナリティーは佐野元春さん
この2つのファクターは重大で強力なインパクトがあると想像していた。
しかし、僕たちの音楽はそこまで世の中の人に受け入れてもらえるほど魅力的でなかったということだ。
そう思うしかないし、実際はそうだったんだろう。
まあ自分たちの曲がFMで流れたという事実だけで良しとして、次に向かうしかない。
僕たちのアルバムを買いに来た?
FM愛知でオンエアーされてから、何度目のライブかは覚えていないけど(多分直後くらいだとは思う)、ELLでのライブ後にオーナーから驚くことを言われた。
「おー、そう言えばこの間、佐野が来たぞ。」
佐野って誰?
いきなり佐野と言われてもわからない。
いろんな知人の中で「佐野」という人を探してみた。
他のメンバーも同じだったと思う。
一人バンドの先輩で「佐野」という人がいたから、その人のことだと思った。
そうしたらオーナーが、
「バカヤロー、佐野元春だ!」
まあ、FM愛知からELLまでは地下鉄で2駅だし、道路沿いに直線で歩いても20分くらいの距離だ。
ましてや当時からELLでは爆風スランプ、子供バンドなどメジャーバンドのライブも行われていたから、佐野元春さんが遊びに来ても不思議ではない。
だから、
「ああ、誰かのバンドでも観に来たんですか?NOKKOとか。」
描かれたメジャーへの道!
そうしたら次に信じられないセリフが返って来た!
「違うわ!お前ら〇〇の入っているオムニバスアルバムを売ってくれと言って来たんだ!」
一瞬耳を疑った。
佐野元春さんが僕たちのバンドを名指しで指名してあのアルバムを買いに来たというとか?
理解するのに数秒かかった。
しかしその事実を把握した瞬間、一瞬にしてサクセスストーリーが脳裏に描かれた!
佐野元春プロデュースでCDデビュー!
全国ツアー!
笑っていいとも!出演!
あの佐野元春さんが、僕たちのことを気に入ってくれたのだ。
オンエアーされた曲は、マージーな曲で当時の佐野さんなら気に入りそうな曲だった。
また、当時の佐野元春さんのスタンス、フットワークから考えれば若手のバンドを発掘、育成する気概も十分に予想できた。
だからもう完全に頭の中は舞い上がってしまった。
メンバーも一瞬にして満面の笑みを浮かべていた。
何で売らなかったの?
そして、すぐにオーナーに聞いた。
「それで、アルバムを買って行ったんですね!何か他に言ってませんでしたか?!」
「おう、もう売り切れたと言っておいたぞ。」
「えっ?あのアルバムもう売り切れているんですか?」
「バカヤロー!まだ段ボールに何箱も残っとるは!全然売れとらん!」
「じゃあなんで売ってくれなかったのですか?!」
「だってそのほうが、お前たちにハクがつくだろう!」
オーナーとしては、僕たちがそれくらい人気があるバンドだと佐野元春さんに伝えたかったのかもしれない。
しかし、僕たちとしてはレコードが佐野さんに渡り、その音源をレコード会社に持ち込んで制作までのプロセスを確立するイメージを持ったので、甚だ残念だった。
メジャーバンドへの道のりがはっきりとイメージできた瞬間、それはまさに走馬灯のように消えて行った。
前を向き、次のチャンスを狙う!
ぬか喜びとは、このようなことを言うのだろう。
メジャーへの道は、そう簡単ではない。
勉強することも多いし、お客の動員だってまだまだだ。
いい曲を書いて、いい演奏をしてファンを増やす。
まずはここをクリアしてステップアップするのが基本だ。
バンドのソングライターは佳曲を書くことで有名だったし、3ピースバンドでフロント2人がツインボーカルで強力だった。
バンドとしての魅力は十分にあると感じていたから、この先にはきっとチャンスはあるはず。
そう思うしかない。
だけど、このようなきっかけを掴むことで、チャンスが訪れることもあるとは思う。